飴玉と炭酸の瓶詰め

短編を中心にときどき長編

天の造花と鎖に縛られた氷

薄暗い部屋に閉じ込められ過ぎてしまった
閉じ込められて外の世界が全く見えなかった
見ようともしなかった、まったくと言っていいほど外の色に今日にが無かった
だから狂ってしまったんだろうか、そんな自覚どこにもない
生まれたときから人に見放された
気付けば赤と夜の色だけが知れる色
眩しい色は嫌いだった、いやあの人の色だけは嫌いではない
幼い俺を救ってくれたあの人の色だけは……

数年が過ぎた、あの人の手伝いがしたくて言ったら仕事をくれた
明るいところが嫌いなのを知ってたあの人は暗闇での仕事だけをくれた
暗いところでの仕事で見れるのは相手の目の色と赤い色だけ
仕事が終わって戻れば手当をして褒めてくれた

ある日、帰るのがやっとの怪我をした
家についた瞬間に意識はなくなり、死ぬのだと思った
時間がどれだけ過ぎたのかはわからない、目を開けると水の中にいた
あの人に言った、「仕事を失敗してすみませんでした」と
煙草から煙をふかしていたあの人に蹴り飛ばされた
壁に背中を強打し、肺に入っていた空気が絞り出されてむせた
ずるずると床に倒れて咳き込むが、あの人は容赦なしに蹴り続けた
しばらく耐えていると終わったのか、元の席に座って見てた
視界がぼやける中、寝ていてはダメだと思い壁伝いに立ち上がる
そしてあの人はいった「失敗は今回だけだ、次はない」と
返事をするとあの人は何かを投げて来た

受け取るのに失敗したが床に転がったやつを拾った
薄い水色の包帯、だった
どこか冷たく、それでもなぜか安心できる気がした
あの人は、「これからはそれを使え」と言った
お守りか何かだと思い嬉しくなった
これがどういうものかは分からなかった、これを使ったらどうなるかも

分からなかった
次の仕事の時にこの包帯を手に巻いた
そして仕事が終わった時、身体が半分凍っていた


日差しが無く、お湯もない
身体は冷えていき視界はぼやけ意識は闇に堕ちていく
仕事は成功した、それを報告しに帰れない
褒めてもらうことができない、それは唯一の光を見られない
本当に闇に堕ちていくのは怖かった
あの時に助けられたからまだ底辺に行かずに済んだ
だから

氷漬けになって堕ちていくのは


怖い


目を覚ますと家にいた
電気はついておらず、窓がない暗い部屋
凍っていた半身は動くようになっていた、いつ溶けたのだろう
起き上がりドアを探し開けると見知った廊下
いつ帰ってきたのか、どうやって帰ってきたのかは覚えてない
ただ、また仕置きをされるのだということだけはわかった

あの人の部屋に行くといつもの煙が無かった
たまたまなのだろうか、気にはなったが言わないことにした
あの人はこちらを向くと全身診た後「大丈夫そうだな」と言った
半身氷漬けのところを見たのだろうか、「大丈夫ですと返した」
そううるとあの人は「悪かったな、説明しなくて」と

いつもと変わらない声で言った
包帯の事だろうか、謝られるのが申し訳なくなった
そのあとソファに座らされ、説明をされて、使い方を教わった

それからの仕事は楽だった
赤色だったのは透明な水色になりまた新しい色を見れた
暗闇に浮き出るその色はとてもきれいだった

人がいるのを忘れるぐらい魅入った
怪我はするが、血が出る前に止血することができるようになった
そして仕事をこなす内に、氷の冷たいという感覚が分からなくなった

 

あの人に拾われてから数年、氷と傷の隣で仕事をしてきた
今だから思う、この包帯はきっとあの人からの見えない鎖だったのだろう
離れることを許さず、生から離れることも許されない鎖
その鎖は俺からしたら天国から伸びる蜘蛛の糸同然だった
生きる為の鎖であり、光を見る為の鎖だった
その鎖は貴方を失ってからも切れる事はなく
むしろ貴方が居た時より強く縛られている
だからこそ
   貴方の墓には
           過去も未来にも
  枯れることのない

                  この花を贈ります


  この鎖のついた人形からの贈り物です、おやすみなさい

 

 

   ×   ×   ×

 

ワンライ 【造花の花束】【見えない鎖】